ジャマイカ旅行記17 - タクシードライバーが飲酒運転!?

BAR 「KUYABA」のカウンターに座った。


雰囲気のよいお店で、バーテンの愛想もよい。
時計を見ると、午後8時30分。


ピーターとの待ち合わせ時間は10時だから、時間はまだたっぷりある。


シーバスリーガルをロックで注文した。


ジャマイカに来てからはレッドストライプばかり飲んでいたから、久々のウイスキーは格別。


波の音を聞きながら、今日までのジャマイカでの出来事をぼんやりと思い出したりしていた。

 

しばらく時間が経ったころ、厨房からコックがやってきて、僕に話しかけてくれた。やはり日本人は珍しいのだろうか。


クールランニングのボブスレーカフェのことを少し話すと、おじさんがボブスレーチームの一員だったという話を始めた。


旅行者向けの単なるリップサービスかと最初は思ったけれど、無邪気に話す様子を見ていると本当のことなんだろうと思った。


「どこから来たの?」と聞かれ、
「モンテゴベイ。これを飲んだらタクシーで帰るんだ。」
と答えると、


驚きを隠せないようで、とても心配そうな顔つきに変わり、モンテゴベイ⇔ネグリルの道はこの時間は危険だから、やめた方がいいとを真剣に忠告してくれた。


道悪で十分な電灯もなく夜には事故が多発しているのだという。


確かに、これまでのジャマイカ人の運転を振り返ると彼の言っていることには妙に説得力があった。


しかし、そんなこと言われても、僕らはタクシーで帰るほか道はない。

 

9時50分になった。待ち合わせ時間まであと10分。そろそろ、ピーターと待ち合わせした駐車場へ向かおうと席を立とうとした時だった。


「どうだい、調子は?」と話しかけてきた男がいた。


またマリファナのバイヤーか??


最初は誰なのか全く理解できなかったが、よく見るとピーター本人だ。


待ちきれずに急かしに来たのだろう。

 

「今、そっちに行こうとしたところだよ。」と僕が言うと、「俺も一杯飲んでもいいか?」ピーターが突然言い出した。


こいつ、飲むつもりか!?
愕然とした。


ジャマイカタクシードライバーは飲酒運転も平気でするのか!?

 

さっきのコックの話と、今直面している状況を冷静に考えると、物事は悪い方向へ進むようにしか思えなくなってきた。


モンテゴベイでの出発前の突然のスコール。

ネグリルで夕日が見れなかったこと。
暗闇で盗人に出くわしたこと。


これら全てのことが、ピーターの飲酒運転によって引き起こされる最悪の事態への序章のような気になってきた。


ひょっとして、僕らを待っている間、ピーターはマリファナを吸っていて、すでにヘロヘロかもしれない。


最後の締めとして酒でもあおるんだろうか。

しらふの時でさえ、超乱暴運転のピーターが酔っ払ったらどうなるんだ?


ガードレールもない細い道を外れ、車が夜のカリブ海へ死のダイブ・・・ そんな光景が頭をよぎる。


ネガティブな感情は雪だるま式に膨らんでく。
お金をケチって安いタクシーの荒くれドライバーを選んだことを心の底から後悔した。

 

メニューを見ながら何を注文するか考えるピーター。


バーボンなんかをストレートでオーダーするんだと確信できた。


強面で大男が飲む酒はそんなものしか考えられない。 きっとそうに違いない。 絶対そうだ。


ああ・・・

 

ピーターが顔を上げる。バーテンに視線を向ける。緊張が走る。

 

そして、口を開いた。


出てきた言葉は・・・

 


「フルーツポンチ」

 


え・・・???
フルーツポンチって・・・


うそぉ~ん・・・


ピーターに渾身のツッコミをかましたい気分だった。

 

まあ、勝手に想像したのは僕だけど、そんなことってあるか?


すっかり拍子が抜けた。可笑しくて可笑しくて仕方ない。

 

実際しばらくの間、 この男とフルーツポンチを結びつけることができなかった。


僕の頭の中で、「フルーツポンチ」がリフレインしていた。


バーテンが何種類かのフルーツをミキサーに入れ、ウィーーーーンと音が響き、オレンジとピンクの間のような色の濃い生フルーツジュースが差し出された。


それをゴクゴクと飲み干したピーターは上機嫌で僕たちをホテルまで運んだ。


ジャマイカ最後の夜は「フルーツポンチ」で幕を閉じることになる。

 

明日の朝、僕は飛行機に乗り日本へ帰る。

 

いつの日かフルーツポンチを飲みにジャマイカへ戻ってこよう。

 

そして、夕日を見ながらフルーツポンチを飲もう。強く強く心に決めたネグリルの夜だった。