ジャマイカ旅行記16 - ホームレスの男との駆け引き、奪われた金 -

RESPECTのフラッグで折り返す。


太陽は完全に沈んでしまっていて、にぎわっていた砂浜の人影も消え暗い静かな帰り道だ。


カリブ海の沖のほうでは雷が暴れているらしく、遠くの方できれいな稲妻が空を裂いていた。

 

ラソンでもそうなのだが、同じ道を戻るというのは、大抵はあまりモチベーションが上がらない。 同じ風景だし、同じことを二度繰り返すことの疲労感か。


しかし、このビーチは違った。
太陽の光が出ているときとは全く別の顔を見せる。往路で見た多くの白人観光客は姿を消し、
物売りまたは物乞いが何度も何度も話しかけてくる。

 

マリファナを売ろうとする者。

小さな民芸品を売ろうとする者。


彼らの大部分は、「いらない」ときっぱりとした口調で断ると大抵は諦めて去っていく。


例外はあった。
ある男が突然話しかけてきた。


たいそうなひげをたくわえたその男は他の物売りとは明らかに雰囲気が違った。


刺繍糸を何本もあわせて編み模様をつけたアクセサリーを3ドルで買えと言う。お願いではなくて、命令に近い。


どうしてもお金が欲しいのだという言う。俺はこれが売れないとのたれ死ぬ、もう何日もご飯を食べていない、と必死で訴えてくる。


周りには誰もいないし、その形相から、断ったらヤバイなという直感が働いた。


「オーケー、3ドルね。」


3ドルで安全を確保できるような気がして、別に欲しいものではなかったけれど買うことにした。

 

財布をポケットから取り出す。運悪く、コインはなく、20ドル札が何枚かと50ドル札が一枚あるだけだ。


「釣銭はあるか?」


そう聞きながら、20ドル札を財布から取り出した瞬間である。その男はその札をさっと奪い取り、走り去った・・・。


罪を憎んで人を憎まずとはよく言ったものだが、やはり後味は悪い。


犯罪を犯す人間をそのまま憎むべきか、このような人生を歩むしかなかった 。この男の不幸を哀れむべきなのか判らなかった。

 

そこから、少し歩くとピーターとの待ち合わせ場所、 BAR KUYABAへ到着した。待ち合わせまではまだ時間がある。


スコッチでも飲んでこの後味の悪さを消そうと思った。