ジャマイカ旅行記 5 - マリファナの売人がカヌーでやってきた -

レッドストライプのビールを何本飲んだだろう。


ビールと太陽とレゲエの波状攻撃により、 副交感神経が全開となり雲に浮いたようなフワフワ感でいっぱいだ。


何時間が経過したのだろうか。


気づくと太陽もだいぶ西に傾いてきている。遠い海をゆっくりゆっくり進むカヌーを発見したのはそんな時だった。


よく見るとカヌーにはサングラスをかけたおじさんが乗っている。


へぇ~、カヌーで海を散歩だなんて粋だなーなんて思っていると、僕の方へ徐々に近づいてくるのだ。着実にゆっくりと。


そして、十分に近づいたところで、 ヤァ~マ~ン!(パトワ語の標準的な挨拶) カモォ~ン!


陽気にそしてちょっと怪しげにおっさんが話しかけてきたのだ!


酔っていたせいもあるのか警戒心は一切働かなかった。 僕もカヌーに近づいてみる。 カヌーには花瓶のような筒や色とりどりの仮面など、
木製の民芸品が多く積んであった。


きっと旅人にお土産を売ることで生計を立てているんだろう。

 

「どこから来たのか?」
「どのくらい滞在するんだ?」
「ジャマイカは好きか?」
旅行者と現地人が話す普通の会話がひとしきり続いた。

 

会話が途切れかけたころで突然おじさんが切り出した。


「Do you smoke?」


smokeといえば、日本ではタバコだがここでは「マリファナ」である。


僕がちょっと興味がありげな様子を見せると、
ガサガサと積荷の奥の方から実物を取り出し見せてきた。


マリファナは比較的容易に手に入るとガイドブックに書いてあったが、 こういう形でそれを手にするチャンスを得たことは驚きであった。


まさか、ホテルのプライベートビーチでとはね・・・


「How much?」


非合法のドラッグを買うつもりは毛頭なかったのだが、 ちょっとしたスリルを楽しみたいという好奇心が口を動かす。


「50 dollars」 と返ってくる。


相当ふっかけてきているんだろう。高いと思った。 日本では物の値段を値切るなんて到底考えられないが、 ジャマイカでは日常茶飯事である。


半値に値切ったらどのような反応をするのだろう?


ちょっとしたいたずら心が芽生え、ゾクゾクしてきた。 気分は深夜特急沢木耕太郎(笑)


「25 dollars!」

 

僕がそう言うと、 早口な英語でこのマリファナがどれだけすばらしいものか 自信満々に主張したながらも、 「48!」、「45!」と少しずつディスカントが始まる。


どうしても売りたいのだろう。 恐らくこのまま交渉を続けていったら30ドル~40ドルで手に入れることができるんだろうなと思った。


しかし、買うつもりがないのに、時間を取らせるのは ちょっと申し訳なく感じたので、あまり長引かせないようにしようと思った。


「No Thanks」 ときっぱり。

僕がそう言ったあとも「待て待て!」と食い下がってきたが、 少しだけ強い口調で「いらない!」といいビーチの元の場所に戻った。

 

マリファナは「多幸感」を味わうことができるドラッグとして有名だ。 常習性もほとんどないと言われている。あったとしても珈琲くらいで、タバコのように強烈ではないとのこと。


またアルコールのように肝臓などに負担をかけたり 二日酔いになることもない。


酒タバコより健康的であると主張する人が多く、 オランダでは合法であるくらいだ。

 

ジャマイカの海と太陽と2ドルで買えるビールだけで十分な 多幸感を味わえる僕にとってはマリファナは必要はなかった。


しかし、こんなすばらしいジャマイカにいてもさらに快楽を求め、 マリファナなどに手を出そうとする多くのものがいるなんて・・・
人間の欲望は限りがないんだな、そう思った。


マリファナのおじさんと記念撮影しておけばよかった。。笑